「年2回」は、すべての建物の義務ではない
消防訓練の回数でよく見る「年2回以上」は、用途が限られた義務です。消防法施行規則第3条第10項は対象を列挙しており、事務所(別表第一(十五)項)はその列挙に入っていません。ただし「やらなくていい」ではありません。実施義務そのものは別の条文にあります。
本サイトは一般的な整理です。実際に必要な届出・設備・寸法は、建物の用途・規模・構造によって変わります。着工前に必ず所轄の消防署と、建物の設計を担当した建築士(または内装業者)にご確認ください。
年2回以上が義務になる用途
消防法施行規則第3条第10項は1文です。
「令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ又は(十六の二)項に掲げる防火対象物の防火管理者は、令第三条の二第二項の消火訓練及び避難訓練を年二回以上実施しなければならない。」
年2回以上が義務になる用途(消防法施行規則第3条第10項・2026年9月13日確認)
| 項 | おおまかな用途 |
|---|---|
| (一)項〜(四)項 | 劇場・集会場/キャバレー等/飲食店/百貨店・店舗 |
| (五)項イ | 旅館・ホテル・宿泊所 |
| (六)項 | 病院・診療所・社会福祉施設・幼稚園など |
| (九)項イ | 蒸気浴場・熱気浴場等 |
| (十六)項イ | 上記の用途が入っている複合用途の建物 |
| (十六の二)項 | 地下街 |
出典:消防法施行規則第3条第10項。列挙されていない用途には、年2回という回数の定めがありません。
並んでいるのは「不特定の人が出入りする場所」と「避難に助けが要る人がいる場所」です。事務所は、どちらにも当てはまりません。
同じ条文の並びは、防炎物品や自衛消防組織の対象用途とは違います。制度ごとに用途の範囲が違うので、ひとつの表で覚えないでください。→ 防炎物品が要るのは高さ31m超のビル/自衛消防組織が要るのは1万㎡から
事務所はどうなるか
事務所は別表第一(十五)項「前各項に該当しない事業場」です。第10項の列挙に入っていないので、「年2回以上」という回数の義務はありません。
では訓練をしなくてよいのか。しなくてよくはありません。消防法施行令第3条の2第2項は、防火管理者の業務として次のように定めています。
「防火管理者は、前項の消防計画に基づいて、当該防火対象物について消火、通報及び避難の訓練の実施、……その他防火管理上必要な業務を行わなければならない。」
事務所の訓練:2つの条文の関係
| 条文 | 事務所に対して定めていること |
|---|---|
| 消防法施行令 第3条の2第2項 | 消防計画に基づいて、消火・通報・避難の訓練を実施しなければならない(実施義務) |
| 消防法施行規則 第3条第10項 | 年2回以上の対象には入っていない(回数の定めがない) |
| 消防法施行規則 第3条第1項第一号チ | 「訓練の定期的な実施に関すること」を消防計画に定める |
出典:いずれもe-Gov法令検索で確認(2026年9月13日)。
つまり「回数は法令で決まっていないが、消防計画に自分で書いた回数でやる」という形になります。消防計画の項目チは「訓練の定期的な実施に関すること」です。定期的であることまでは求められています。→ 消防計画に書く12項目
「年1回でよいか」という問いに、条文から答えは出せません。消防計画に何回と書いたかで決まります。書いた回数より少なければ、計画に従っていないことになります。
1階に店舗が入ると変わる
ここがいちばん取りこぼしやすいところです。第10項の列挙には(十六)項イが入っています。
(十六)項イは「複合用途防火対象物のうち、その一部が(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの」です。
1階に飲食店や店舗が入っている貸しビルは、建物として(十六)項イになります。そのビルに入っている事務所の防火管理者も、年2回以上の対象です。
同じ「事務所」でも扱いが分かれる
事務所だけが入っているビル
1階に飲食店が入っているビルの事務所
1階がコンビニ(店舗)のビルの事務所
1階が別の会社の事務所
自社のフロアだけを見ていると判定を誤ります。建物全体にどの用途が入っているかで決まります。同じ考え方は統括防火管理者の判定にも出てきます。→ 統括防火管理者が要るのは高さ31m超から
訓練の前に消防機関へ通報する
規則第3条第11項は、第10項を受けた1文です。
「前項の防火管理者は、同項の消火訓練及び避難訓練を実施する場合には、あらかじめ、その旨を消防機関に通報しなければならない。」
通報義務の範囲
| 区分 | 通報義務 |
|---|---|
| 第10項の対象(年2回以上の用途) | あらかじめ消防機関に通報しなければならない |
| それ以外(事務所だけのビルなど) | 第11項は「前項の防火管理者は」とあり、対象外 |
出典:消防法施行規則第3条第11項。ただし自治体によっては任意の届出様式を用意しています。所轄の消防署にご確認ください。
「あらかじめ」なので、実施後の報告ではありません。日程が決まった段階で消防機関に伝えます。
1階に店舗が入るビルの事務所は、この通報の対象になります。年2回の実施義務とセットで動く規定です。
何の訓練をやるのか
令第3条の2第2項が挙げているのは「消火、通報及び避難の訓練」の3つです。規則第3条第10項が年2回以上としているのは、そのうち「消火訓練及び避難訓練」の2つです。
条文に出てくる3つの訓練
- 消火訓練:令第3条の2第2項/規則第3条第10項(年2回以上の対象)
- 避難訓練:令第3条の2第2項/規則第3条第10項(年2回以上の対象)
- 通報訓練:令第3条の2第2項(年2回以上の条文には含まれない)
通報訓練は「年2回以上」の列挙に入っていません。ただし令第3条の2第2項の実施義務には含まれています。
順番
- ① 建物の用途を確かめる事務所だけなら(十五)項。店舗や飲食店が入るなら(十六)項イ。
- ② 年2回以上の対象かどうかを判定する規則第3条第10項の列挙に自分の建物が入るかを見ます。
- ③ 消防計画に回数と方法を書く規則第3条第1項第一号チ「訓練の定期的な実施に関すること」。
- ④ 対象なら、あらかじめ消防機関に通報する規則第3条第11項。実施後ではなく事前です。
- ⑤ 実施して、記録を残す条文に記録の様式はありません。所轄消防署の運用にしたがってください。
よくある取りこぼし
「消防訓練は年2回」と覚えていた
年2回以上は規則第3条第10項の列挙された用途だけです。事務所(十五)項は入っていません。
回数の定めがないから、やらなくてよいと思った
令第3条の2第2項が「消火、通報及び避難の訓練の実施」を防火管理者の業務としています。
自社のフロアだけで用途を判定した
1階に飲食店や店舗が入ると建物は(十六)項イ。年2回以上の対象になります。
事務所どうしの複合ビルも対象だと思った
(十五)項どうしの複合は(十六)項ロ。第10項の列挙に(十六)項ロは入っていません。
訓練の後に消防署へ報告すればよいと思った
第11項は「あらかじめ、その旨を消防機関に通報しなければならない」。事前です。
通報訓練も年2回の義務だと思った
第10項は「消火訓練及び避難訓練」の2つだけを年2回以上としています。
消防計画に書いた回数を守っていなかった
回数は計画で決まります。書いた回数より少なければ、計画に従っていないことになります。
確認に使った一次情報
2026年9月13日に e-Gov法令検索で確認した条文です。訓練の内容・通報の様式・記録の残し方は市町村の消防本部ごとに運用が異なります。所轄の消防署にご確認ください。
避難経路をふさがない配置に、什器から見直す
避難通路と避難口の維持管理は消防計画の項目です。配置は所轄消防署と管理会社にご確認ください。
- 価格・在庫・納期は各社公式サイトでご確認ください
- 設置できる什器は建物の条件により異なります
- 工事を伴う場合は所轄消防署への届出が必要になることがあります
事務所のレイアウトと法令ガイドの記事一覧
一次情報の確認先
本ページの前提となる制度・統計は、以下の公的機関等の公表情報で確認できます。最新の内容は必ず各機関の公式ページでご確認ください。